2026.10.07 カスハラ対策ウォッチ|自治体編①
これまで本サイトでは、大阪府・大阪市・四日市市など、個別のニュースとして自治体の動きを取り上げてきました。今回は視点を変えて、全国の自治体の中から特に特徴的な対策を打ち出している4つの事例を横に並べて比較します。
窓口を持つ自治体の数だけ、カスハラの現れ方も対策の中身も違う、ということが見えてきます。
4つの自治体の「とがった一手」
| 自治体 | 主な対策 | 時期 |
|---|---|---|
| 奈良県生駒市 | 名札のデザイン変更、人事異動公表を管理職以上に限定 | 2024年9〜10月 |
| 三重県桑名市 | 全国初、悪質客の氏名公表+訴訟費用を最大10万円補助 | 2025年4月施行 |
| 秋田県 | クマ駆除をめぐる苦情電話を録音へ | 2025年12月〜 |
| 東京都 | 条例に加え、中小企業へのカスハラ対策奨励金(最大40万円) | 2025年4月〜 |
奈良県生駒市:名札と人事異動公表を見直す
生駒市は2024年7月に実施した職員アンケートで、過去3年間にカスハラと思われる行為を受けたと感じた職員が、929人中283人(約30%)に上ることを把握しました。
これを受けて、2024年10月から職員の名札を「所属名・役職(管理職のみ)・名字(ひらがなとローマ字)」のデザインに変更。あわせて、これまで全職員分を公表していた人事異動の発表を、管理職以上に限定しました。SNS上にフルネームを晒されるといった被害を防ぐ狙いです。弁護士資格を持つ職員の採用も進めており、今後は庁舎内への防犯カメラ設置や電話録音装置の導入も検討しています。
「名前を特定されにくくする」という、個人の安全を守る方向の対策に重心を置いているのが特徴です。
三重県桑名市:全国初、悪質客の「氏名公表」
桑名市は2025年4月、基礎自治体として全国で初めて、悪質なカスハラ行為者の氏名等を公表できる制裁措置を盛り込んだ条例を施行しました。警告してもなお改善が見られない行為者について、氏名や住所の一部を市のホームページ上で約1年間公表できる仕組みです。公表前には行為者に弁明の機会を与え、第三者委員会の意見も聴くという手続きを踏みます。
同時に、カスハラ被害に遭った就業者が弁護士に相談したり、訴訟を起こしたりする際の費用を、1件あたり最大10万円まで補助する制度も設けました。伊藤徳宇市長は「自治体でできるギリギリのところ」と、制裁と被害者支援の両輪で臨む姿勢を語っています。
秋田県:苦情電話そのものを録音する

やや毛色の違う事例です。秋田県では、クマによる被害が深刻化する中、クマの駆除方針などに対する苦情電話が県庁に殺到しました。2025年11月半ばからの約1か月で770件ほどに上り、鈴木健太知事によれば、その半数以上が県外からの批判的な意見だったといいます。長時間に及ぶ電話で業務に支障が出ていることから、県は2025年12月、通話内容の録音を始める方針を明らかにしました。
カスハラの相手が「顧客」ではなく「問い合わせてくる一般の人」であり、しかも多くが県外からという点で、窓口対応型のカスハラとは違う種類の負荷が可視化された事例です。録音という手段自体は他の自治体とも共通しますが、きっかけとなった事情はかなり特殊といえます。
東京都:条例とセットで、企業への奨励金を用意
東京都は2024年10月、都道府県として初めてカスハラ防止条例を可決・成立させ、2025年4月に施行しました。都の条例は、事業者にカスハラ防止の努力義務を課す一方で、対策を後押しする独自の支援策もセットにしている点が特徴です。
- 企業向け奨励金:マニュアル整備など実践的な対策を行った従業員300人以下の中小企業に、一律40万円を支給
- 団体向け奨励金:会員企業向けにカスハラ対策の体制を整えた業界団体等に、最大100万円を支給
- 団体向け補助金:都と連携して対策の普及に取り組む団体に、補助率1/2・上限5,000万円で支援
義務を課すだけでなく、対応コストの一部を都が肩代わりする設計にしている点は、これから対策を始める中小事業者にとって参考になる仕組みです。
まとめ
4つの事例を並べると、「個人の安全を守る」(生駒市)、「加害者への制裁と被害者支援」(桑名市)、「窓口以外からの負荷への対応」(秋田県)、「義務化とセットでの資金支援」(東京都)と、カスハラ対策が向き合っている課題の幅広さが見えてきます。自分の自治体・業種に近い事例を探す際の、ものさしの一つとして役立てば幸いです。
自分の自治体で使える制度を調べる
今回紹介した東京都の奨励金のように、カスハラ対策に使える補助金・奨励金は自治体ごとに内容が大きく異なります。
当サイトでは、国・47都道府県・政令指定都市・中核市などの支援制度を一次情報から調査し、データベースとして公開しています。
出典
- 生駒市:カスタマーハラスメント対策を強化(記者会見資料)(2024年9月13日)
- 桑名市:桑名市カスタマーハラスメント防止条例
- 日本経済新聞:三重県桑名市、カスハラ被害者の訴訟費を10万円まで補助(2025年2月4日)
- 読売新聞:秋田県がクマ駆除への苦情電話を録音へ…長時間電話で業務に支障、知事「半数以上が県外からの批判」(2025年12月3日)
- 東京しごと財団:カスタマーハラスメント防止対策推進事業企業向け奨励金


