2026.10.10 カスハラ対策ウォッチ|自治体編②
自治体編の第1弾では、奈良県生駒市・三重県桑名市・秋田県・東京都という、都道府県と基礎自治体を横断して比較しました。今回は視点を変えて、政令指定都市・中核市という「大きな市」に絞り、大阪市・札幌市・岡山市・堺市の4市を比較します。
自治体のカスハラ対策は、他の自治体がどう動いているかが参考にされやすい分野です。規模の近い市同士でどんな工夫の違いがあるか、見ていきます。
大阪市:2025年10月、庁舎からの退去命令まで明記
大阪市は2025年10月1日、「大阪市職員に対するカスタマーハラスメント対策基本方針」を策定しました。義務化の施行日と同日というタイミングです。
対応面では、被害を受けた場合に警告や対応の終了を組織として毅然と行うとしたうえで、状況に応じて庁舎からの退去命令、警察への通報、法的措置をとることがあると明記しています。報告・相談体制の整備や職員研修もあわせて実施するとしています。
札幌市:法改正を受けて基本方針を改定
札幌市は2024年9月に「職員カスタマーハラスメント対策基本方針」を策定し、2026年10月、改正労働施策総合推進法の施行にあわせて改定しました。
対応の流れは段階的に整理されています。
- 利用者の事情に配慮し、要望や意見に真摯に耳を傾け、丁寧に説明する
- カスハラに該当する場合は複数の職員で対応し、職員からの相談に応じる
- 状況に応じて警告を行い、対応を中止する
- 悪質と判断される場合は警察へ通報し、弁護士に相談する
「まず丁寧に聞く→組織対応→警告→法的対応」という段階を明確にしている点が特徴です。
岡山市:事業者まで対象を広げた「カスタマーハラスメント防止条例」
もっとも踏み込んだ動きを見せているのが岡山市です。2026年4月1日に施行された「岡山市カスタマーハラスメント防止条例」は、市職員だけでなく、市内で活動する事業者・就業者を対象に含めた条例です。
なお、基礎自治体によるカスハラ防止条例そのものは、三重県桑名市が2025年4月施行で全国に先駆けて制定しています(自治体編①で紹介した「全国初、悪質客の氏名公表」の条例です)。桑名市の条例は、委員会による行為の認定と悪質行為者の氏名公表という制裁的な仕組みに重きを置いているのに対し、岡山市の条例は、相談体制の整備を事業者の義務(一部努力義務)として課す点に力点を置いており、同じ「市区町村レベルの条例」でもアプローチの違いが見えます。
- 個人事業主、フリーランス、ボランティア、訓練・実習中の人まで「就業者」に含める
- 事業者には相談体制の整備や再発防止策が義務(雇用関係がない就業者については努力義務)
- 相談や事実の申告を理由とする不利益取扱いを禁止
- 毎年12月を「岡山市カスタマーハラスメント撲滅月間」に設定
条例には罰則はありませんが、附則で「社会環境の変化や施行状況を勘案し、必要があれば罰則を設ける」と将来の見直しに含みを持たせています。自治体が条例で民間事業者の対策まで後押しする、先進的な枠組みです。
堺市:「一定時間経過で対応を中止」という具体的な基準
堺市の対応マニュアルで目を引くのが、対応の打ち切りについての具体的な表現です。「十分に説明しても言動が繰り返される場合は、一定時間が経過した時点で対応を中止する」としており、管理職が職員に対応を任せきりにしないことも明記しています。相談窓口は各局区・人事部の公正職務確保担当のほか、庁外窓口も用意されています。
4市を並べてみると
| 比較項目 | 大阪市 | 札幌市 | 岡山市 | 堺市 |
|---|---|---|---|---|
| 形式 | 基本方針 | 基本方針(改定あり) | 条例(事業者も対象) | 基本方針・対応マニュアル |
| 策定・施行時期 | 2025年10月 | 2024年9月策定/2026年10月改定 | 2026年4月施行 | 更新2026年8月(策定日不明) |
| 対象範囲 | 市職員 | 市職員 | 市職員+市内事業者・就業者 | 市職員 |
| とがった一手 | 庁舎からの退去命令を明記 | 段階的な対応フローの明確化 | 撲滅月間・不利益取扱い禁止・罰則の将来検討 | 対応打ち切りの時間基準を明記 |
4市とも「組織対応」「警察・弁護士との連携」という骨格は共通していますが、岡山市だけは対象範囲が大きく異なります。市職員の保護にとどまらず、条例として市内の民間事業者・就業者全体を対象に含めた点は、他の自治体が参考にしやすい先進事例と言えそうです。
カスハラテックでできること

今回、堺市の「一定時間が経過した時点で対応を中止する」という基準が印象的でした。この「時間」という客観的な指標は、現場の職員が自分の判断だけで打ち切りを決めなくて済む、心理的な負担軽減につながります。
- 対応時間の自動計測・通知:対応開始からの経過時間を記録し、一定時間を超えたらアラートを出す仕組み
- やり取りの自動記録:「丁寧に説明したか」「どの段階で警告したか」を後から振り返れる記録の仕組み
- 庁内への共有:悪質な事案の情報を部署間で共有し、同じ相手への対応を標準化する
自治体のカスハラ対策は、職員を守るだけでなく、市民サービス全体の質を守ることにもつながります。引き続き他の自治体の動きも追っていきます。


