2026.10.07 カスハラ対策ウォッチ|小売編②
外食業界は、接客を伴う仕事の宿命として、もともとカスハラの被害に遭いやすい業界です。農林水産省の資料によれば、宿泊業・飲食サービス業の離職率は26.6%と、全産業平均(15.4%)を大きく上回っており、カスハラに起因する離職も一定程度あるとみられています。
今回は、この業界で先行して方針を公表してきた外食チェーン各社の中から、特に特徴的な対策を打ち出している4社を比較します。
▶ 元記事:飲食分野におけるカスタマーハラスメント対策の取組について(農林水産省 新事業・食品産業部 外食・食文化課)
業界団体も動いている
全国の大手外食事業者など約800社が加盟する日本フードサービス協会(JF)では、理事会や説明会を通じて厚生労働省の「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」の普及を進めるとともに、教育研修委員会で各社の取り組みや課題を共有してきました。
委員会では「クレーム対応マニュアルはあるが、カスハラ対策マニュアルはない」「現場で対応する店長の負担が非常に大きい」といった声が上がっており、経験の浅い従業員でも判断できる基準づくりが課題として挙がっています。
その中で、各社の方針公表は次のように進みました。
| 時期 | 公表した主な企業 |
|---|---|
| 2024年9月 | 松屋フーズグループ、SRSホールディングス |
| 2024年10月 | サッポロライオン、セブン&アイホールディングス、アークランドサービスホールディングス |
| 2024年11月 | すかいらーくホールディングス、モンテローザ、コメダホールディングス |
| 2024年12月 | 物語コーポレーション、吉野家ホールディングス、日本ケンタッキー・フライド・チキン |
コンビニ3社(2024年8〜9月)とほぼ同じ時期に、外食業界でも足並みが揃っていたことが分かります。
4社の「とがった対策」

同じ「方針を公表する」でも、具体的な一手は会社によって違います。農林水産省の資料と各社の発表から、特徴的な4つを紹介します。
日本ケンタッキー・フライド・チキン:何がカスハラか、店頭に掲示する
独自にカスハラと判断する行為を明らかにしたポスターを作成し、店頭に掲出しています。方針を公開するだけでなく、「具体的に何がアウトなのか」を来店客の目に触れる場所で明示している点が特徴です。
タリーズコーヒージャパン:名札を、イニシャルだけに
従業員の名札を、漢字とローマ字を併記する形から、イニシャルのみの表記に変更しました。コンビニ編で紹介したセブン-イレブンの名札対応と似た発想ですが、タリーズは選択式ではなく、イニシャル表記に統一している点が異なります。
千房ホールディングス:全店にクラウドカメラ
お好み焼きチェーンを展開する千房ホールディングスは、カスハラ対策として直営店全店にクラウドカメラを導入しました。録音よりも踏み込んだ、映像での記録・抑止という手段を選んでいます。
導入したのは、セーフィー株式会社のクラウド録画サービス「Safie」(カメラ機種はQBiC CLOUD CC-2L、196台を直営全店に設置)。決め手は管理画面の使いやすさだったといいます。カスハラ対策だけでなく、朝礼の様子の確認や接客指導など、日々のオペレーション改善にも活用されているとのことです。
吉野家ホールディングス:入店・連絡を断る場合がある、と明記
吉野家は、カスハラと認定した客について「今後の来店および連絡をお断りする場合がある」と、基本方針に明記しました。個人の対応とせず組織として対応すること、悪質な場合は警察や弁護士と連携することも合わせて定めています。ローソンの「入店拒否の明記」(コンビニ編で紹介)と同じ方向性の対応です。
コンビニ編と並べて見えてくること
4社を見ると、「ポスターで事前に周知する」(KFC)、「個人が特定されにくくする」(タリーズ)、「記録を残す環境を整える」(千房)、「悪質な相手には関係を断つ」(吉野家)と、対策の重心がそれぞれ違うことが分かります。
これはコンビニ編の3社比較とも重なる構図です。業界が違っても、企業が選べる打ち手の種類自体は、方針の明確化・現場の抑止・証拠の保全・悪質客との関係遮断という、いくつかの型に収まっていくように見えます。自社の対策を検討する際は、どの型から着手するかを考える切り口として、他業界の事例も参考にできそうです。
自分の自治体で使える制度を調べる
カスハラ対策に関する支援制度は、国・都道府県・市区町村がそれぞれ独自に設けており、内容も対象も大きく異なります。
当サイトでは、国・47都道府県・政令指定都市・中核市などの支援制度を一次情報から調査し、データベースとして公開しています。
出典
- 農林水産省 新事業・食品産業部 外食・食文化課:飲食分野におけるカスタマーハラスメント対策の取組について
- 日本経済新聞:吉野家HDがカスハラ対応方針 「来店断る場合も」明記(2024年12月2日)
- 吉野家ホールディングス:カスタマーハラスメント基本方針
- セーフィー株式会社:お好み焼きチェーン「千房」の直営全店にSafieを導入


