2026.10.26 カスハラ対策ウォッチ|ニュース解説
2026年10月1日の改正労働施策総合推進法の施行から、約ひと月が経とうとしています。相談窓口を設置した、方針を公表した——そうした「制度の骨組み」ができた企業は着実に増えています。しかし、ここへきて各所から聞こえてくるのは、「仕組みはできたが、現場までは浸透していない」という声です。
今回は、義務化から約ひと月というタイミングで、3つの調査・報道をもとに、今の現場で実際に何が起きているのかを整理します。
「対応ルール整備済み」はまだ24.2%。制度と実感のギャップ
カスタマーサクセス関連メディア「Tayori」のトレンドウォッチ(2026年10月14日公開)が紹介しているアスピックの調査結果は、現状を端的に示しています。電話対応に携わる240人を対象にした調査で、過去1年間にカスハラ被害を経験した人は59.6%にのぼった一方、自社の対応ルールが「整備済み」だと答えた人は24.2%にとどまりました。
被害を受けた人の72.7%が精神的ストレスを訴えており、企業に求める対策として最も多く挙がったのは「上司・管理者への引き継ぎ」——つまり、現場の一人に判断を背負わせない体制づくりでした。
記事はこの状況を「規程や窓口を新設した企業がある一方、現場では『対策が整っている』という実感に至っていない層が多数派」と表現しています。方針を文書化することと、それが現場の実感として機能することの間には、まだ埋まっていない溝があるようです。
被害経験と整備率のギャップは、ちょうど3倍の開き。制度づくりの次のフェーズが「作ること」から「浸透させること」へ移りつつあることを、この数字は物語っています。
カスハラは「顧客だけ」の問題ではない、という指摘
もうひとつ興味深いのは、ビジネスメディア「EnterpriseZine」が10月5日に報じた、コンタクトセンター支援企業リンクの調査(問い合わせ窓口業務560人対象)です。
過去1年にカスハラを受けた割合は47.0%。そして、カスハラが発生する要因として最も多く挙がったのは「顧客側の特権意識」(36.2%)ではなく、「企業のたらい回し・過度な待機時間」(47.1%)でした。
これは見逃せない視点です。カスハラ対策というと「悪質な顧客からどう従業員を守るか」という話になりがちですが、実際には企業側の対応プロセスの不備——たらい回しや長い待ち時間——が、顧客の苛立ちを増幅させているケースが少なくないということです。桐生正幸教授(同記事内)も、グレーゾーンの深刻化は企業側の対応の不備と顧客側の個人的特質の相互作用によるものだと指摘しています。
制度の整備と並行して、問い合わせ対応そのものの質を見直すことも、遠回りなようで実は有効なカスハラ対策なのかもしれません。
先行企業の実践:池田模範堂(MUHI)の「30分ルール」
同じEnterpriseZineの記事では、かゆみ止め「MUHI」で知られる池田模範堂の取り組みも紹介されています。
同社は2025年11月に「カスタマーハラスメント対策宣言」を公表し、2026年8月には全社用マニュアルを整備しました。特徴的なのは、カスハラの判定基準を具体的な数値で定めている点です。1回の対応だけでは認定せず、「同一内容の10分以上の重複が3回続く、計30分」を目安に、通話を切ることができる基準を設けています。
さらに、通話を録音していることを事前に案内するガイダンスを導入したところ、セクシャルハラスメント目的の電話が大幅に減ったといいます。「組織が支えてくれている」という実感が、現場の安心感につながっているとされています。
抽象的な「毅然と対応する」という方針だけでなく、「何分続いたら切るか」という具体的な数字に落とし込んでいる点は、他業種でも参考にしやすいポイントだと思います。
「方針は作ったが現場が動けない」企業へ、専門家からの指摘
PR TIMESで10月21日に発表された、特定社会保険労務士・小野純氏によるセミナー告知も、今のタイミングを象徴しています。タイトルはずばり「カスハラ対策義務化から3週間、『方針は作ったが現場が動けない』企業へ」。
多くの企業に伴走してきた専門家の実感として、このフレーズが見出しに掲げられていること自体が、現場の空気をよく表しています。義務化前に方針や相談体制の骨組みだけは整えたものの、「実際に起きたときにどう判断し、どう対応するか」という運用レベルまでは落とし込めていない企業が、まだ少なくないということでしょう。
線引きの難しさに悩む場面は多いと思いますが、判断基準の整理についてはカスハラと正当なクレームの違いとは?でも詳しく解説していますので、あわせて参考にしてみてください。
まとめ:焦点は「制度」から「浸透」へ
3つの記事に共通して見えてくるのは、「義務化はスタートしたが、現場への浸透はこれから」という足踏み感です。方針を公表し、窓口を設置するという「制度づくり」のフェーズは多くの企業で一区切りついた一方、実際に起きたときに現場がどう動けるか、という「運用」のフェーズはまだ道半ばというのが実態のようです。
逆に言えば、ここからの1〜2ヶ月で「数値化された判断基準をつくる」「録音・録画など記録の仕組みを整える」といった具体策に踏み込めるかどうかが、制度を本当に機能させられるかどうかの分かれ目になりそうです。
自分の自治体で使える制度を調べる
カスハラ対策に関する支援制度は、国・都道府県・市区町村がそれぞれ独自に設けており、内容も対象も大きく異なります。
当サイトでは、国・47都道府県・政令指定都市・中核市などの支援制度を一次情報から調査し、データベースとして公開しています。
出典
- CX/EXトレンドウォッチ:カスハラ対策義務化は始まった。「機能する対策」までの距離は|Tayori(2026年10月14日):https://tayori.com/blog/trendwatch-vol4/
- 2026年10月に義務化されたカスハラ対策、その実態は?「MUHI」展開する池田模範堂の実践例も|EnterpriseZine(2026年10月5日):https://enterprisezine.jp/news/detail/25220
- 【社労士直伝】カスハラ対策義務化から3週間、「方針は作ったが現場が動けない」企業へ|PR TIMES(2026年10月21日):https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000606.000118219.html
※本記事は上記各記事の内容をもとに、当サイトが独自の視点で解説・再構成したものです。調査の詳細な実施条件等は各引用元の発表資料をご確認ください。


