2026.09.17 最新ニュース解説
カスハラ対策というと、どうしても「事業者が悪質な客からどう従業員を守るか」という視点で語られがちです。しかし、10月の義務化を目前にした今、客の側にも変化が起きていることが、ある調査から見えてきました。
Job総研が2026年9月14日に発表した「2026年 カスハラに関する意識調査」によると、企業や店舗に不満を感じた経験がある人のうち、44.0%が実際にはその不満を相手に伝えていなかったことが分かりました。
▶ 元記事:「カスハラと思われたくない」 不満あっても44%が伝えず、意識調査で浮かぶ”言いづらさ”(おたくま経済新聞)
不満はある。でも、伝えない
調査は、全国20〜50代の就業者463人を対象に、8月12日から17日にかけて実施されたものです。
企業や店舗、サービスに不満を感じた経験について尋ねたところ、77.1%(357人)が「ある」と回答。理由としては「店員・担当者の態度」(64.4%)が最も多く、「説明や案内が不十分」(41.5%)、「商品・サービスの品質」(38.4%)と続きました。
ここまでは、よくある結果に見えます。注目すべきは次です。不満を感じた357人のうち、
- 「我慢して伝えなかった」:29.4%
- 「伝えようとしたが、やめた」:14.6%
合わせて44.0%が、その不満を実際には相手に伝えていませんでした。
「面倒な客と思われたくない」という理由
伝えなかった理由として最も多かったのは「時間や手間がかかると思った」(42.7%)でしたが、僅差で2番目に多かったのが「面倒な客と思われたくなかった」(32.5%)です。「言っても改善されないと思った」(31.8%)も上位に入りました。
これは、単に「クレームを言うのが面倒」という話ではありません。「不満を口にすること自体が、迷惑な客として見られてしまうのではないか」という不安が、正当な指摘さえ飲み込ませている構図です。
カスハラ対策が社会に浸透すればするほど、「これを言ったらカスハラだと思われるかもしれない」というブレーキが、真っ当な声にまでかかってしまう。対策の”副作用”とも言える現象が、数字として表れた形です。
それでも87.2%は「不満を伝えること」に賛成
一方で興味深いのは、不満を伝えること自体については、87.2%が「賛成派」だったという結果です。
理由は「問題を改善してほしい」(54.7%)が最多で、「正当なサービスを受けたい」(44.3%)、「同じことが他の人にも起きないようにするため」(42.3%)と続きます。
つまり多くの人は、「不満を伝えるのは本来良いことだ」と考えながらも、いざ自分の番になると「面倒な客と思われたくない」という気持ちが先に立ち、口をつぐんでしまう。理屈と行動のあいだにギャップがある状態です。
さらに、自分自身も気づかないうちに「カスハラにあたる言動をしているかもしれない」と考える人も37.8%いました。多くの消費者が、加害者側にも被害者側にもなりうる境界線を、意識しながら過ごしていることがうかがえます。
「苦情の全てがカスハラではない」
10月1日から、改正労働施策総合推進法により、事業主にはカスタマーハラスメント防止のための措置が義務付けられます。
ただし厚生労働省は、Webマガジンで次のように明記しています。
顧客等からの苦情の全てがカスタマーハラスメントに該当するわけではありません
客観的に見て社会通念上許容される範囲内で行われたものは「正当な申入れ」であり、カスハラには当たらない、というのが国の立場です。従業員を理不尽な要求や暴言から守ることはもちろん重要ですが、その裏側で「カスハラと思われるのが怖いから、正当な意見までため込む」という状態が広がるのは、事業者にとっても本来望ましいことではありません。改善のヒントになるはずの声が、届く前に消えてしまうからです。
10月の義務化を機に問われているのは、「客を萎縮させないこと」も含めた、苦情とカスハラの線引きなのかもしれません。
自分の自治体で使える制度を調べる
カスハラ対策に関する支援制度は、国・都道府県・市区町村がそれぞれ独自に設けており、内容も対象も大きく異なります。
当サイトでは、国・47都道府県・政令指定都市・中核市などの支援制度を一次情報から調査し、データベースとして公開しています。都道府県と事業の分野を選ぶと、守るべきこと・無料で使える支援・費用の補助が一覧で表示されます。
出典
- おたくま経済新聞:「カスハラと思われたくない」 不満あっても44%が伝えず、意識調査で浮かぶ”言いづらさ”(2026年9月16日)
- Job総研:2026年 カスハラに関する意識調査(2026年9月14日発表)
- 厚生労働省 Webマガジン:安心して働ける職場へ ─ ハラスメント対策の強化で何が変わる?
