2026年9月15日、大阪市が市内在住の男性を相手取り、大阪地裁への提訴方針を明らかにしました。市立プールの設備不具合や接客対応をめぐって、令和5年5月から今年6月まで、電話と面談を合わせて600回を超える対応を職員に強いたというカスハラ事案です。
相談や説明を尽くしても収まらないクレームに対して、行政が「提訴」という手段に踏み切った経緯を見ていきます。
▶ 元記事:職員に「辞めてしまえ」 大阪市、電話など600回超繰り返した男性をカスハラで提訴へ(産経ニュース)
3年以上、600回を超える対応
市によると、男性は令和5年5月から2026年6月にかけて、市立プールの設備不具合や接客対応について、担当課に説明や謝罪を繰り返し要求していました。
その回数は、電話548件、面談93回。合わせて600回を超えます。単発の激しいクレームではなく、3年以上にわたって断続的に繰り返されてきた点が、この事案の特徴です。
対応の中では、職員に対して「くそったれ」「辞めてしまえ」といった暴言が浴びせられることもあり、1回の対応が1時間以上に及ぶこともあったといいます。
「説明」と「要求の繰り返し」の境界線
厚生労働省の指針では、カスタマーハラスメントを「要求内容の妥当性」と「手段・態様の相当性」の2つの軸で判断するとしています。今回のケースでいえば、設備不具合についての説明や謝罪を求めること自体は、当初は正当なクレームの範囲だったと考えられます。
問題は、市が繰り返し説明や謝罪を行ったにもかかわらず、同じ要求が3年以上、600回を超えて続いた点です。指針が挙げる「継続的・執拗な言動」に該当する可能性が高い状態が、長期間放置されずに法的措置まで進んだ事案として注目されます。
訴訟で求める内容
議案が9月定例市議会で可決されれば、市は10月にも大阪地裁に提訴する方針です。訴訟で求める内容は次の2点です。
- 長時間の電話など、業務に支障を来す行為をやめること(差止め)
- これまでの対応に要した職員の給与相当額、約40万円の支払い
単に「やめてほしい」と求めるだけでなく、職員がこの男性への対応に費やした人件費を、損害として数値化して請求している点がポイントです。600回を超える対応にかかった時間を給与換算すると約40万円という規模だったことが、今回初めて数字として示されました。
「一定のラインを越えたものは、毅然とした対応で」
横山英幸市長は記者団の取材に対し、次のように述べています。
激しい言葉など一定のラインを越えたものは、市としても毅然とした対応で臨んでいきたい
大阪市はすでに「大阪市職員に対するカスタマーハラスメント対策基本方針」を策定し、報告・相談体制の整備や職員研修、啓発ポスターの掲示などを進めてきました。今回の提訴方針は、その基本方針で掲げてきた「毅然とした対応」を、実際に法的手続きという形で実行した事例といえます。
行政窓口は民間の店舗と違い、「入店をお断りする」「取引を打ち切る」という選択肢を取りにくい構造があります。だからこそ、方針を掲げるだけでなく、限度を超えた相手には損害賠償請求や差止め請求という法的手段まで用意しておくことが、他の自治体にとっても一つの選択肢として参考になります。
10月1日からの義務化との関係
2026年10月1日、改正労働施策総合推進法が施行され、企業規模や業種を問わず、すべての事業主に雇用管理上の措置義務が課されます。自治体も例外ではありません。
指針が挙げる、カスハラ特有の措置の1つに「特に悪質なカスタマーハラスメントへの対処の方針をあらかじめ定め、周知し、対処できる体制を整備すること」があります。指針の解説では、この対処の例として以下が挙げられています。
- 事案の内容や状況に応じ、行為者に対して必要な要求を行う(面談・電話等の謝絶を含む)
- 暴行、傷害、脅迫などの犯罪に該当し得る言動については警察へ通報する
- 損害賠償請求など、法的な対応を検討する
今回の大阪市のケースは、まさにこの「法的な対応の検討」を実行に移した事例です。10月の義務化を前に、「方針を作って終わり」ではなく、実際に機能する対処のフェーズに入った自治体の動きとして位置づけられます。
自分の自治体で使える制度を調べる
カスハラ対策に関する支援制度は、国・都道府県・市区町村がそれぞれ独自に設けており、内容も対象も大きく異なります。
当サイトでは、国・47都道府県・政令指定都市・中核市などの支援制度を一次情報から調査し、データベースとして公開しています。都道府県と事業の分野を選ぶと、守るべきこと・無料で使える支援・費用の補助が一覧で表示されます。
出典
- 産経ニュース:職員に「辞めてしまえ」 大阪市、電話など600回超繰り返した男性をカスハラで提訴へ(2026年9月15日、前川康二)
- 大阪市:大阪市職員に対するカスタマーハラスメント対策基本方針
