2026.10.14 更新(初稿:2026.08.11)
第2回では、改正労働施策総合推進法が企業に求める4つの措置義務を解説しました。第3回では、視点を変えて「対策を先送りするとどうなるか」、企業が直面する3つのリスクを具体的に整理します。
リスク①:人材の流出と採用難
カスハラを放置すると、対応にあたった従業員は孤立感を深め、エンゲージメントが低下します。結果として、経験豊富な人材の離職、メンタル不調による休職・労災申請の増加、さらには口コミサイトやSNSを通じて「ブラック職場」という評判が広がり、採用そのものが難しくなるという悪循環につながります。
リスク②:安全配慮義務違反による損害賠償と労災リスク
労働契約法第5条に基づき、企業には従業員の心身の安全に配慮する義務があります。被害を把握しながら放置し、従業員の心身に影響が出た場合、この安全配慮義務違反を理由に損害賠償責任を問われるおそれがあります。
実際に、組織的な対応を怠ったことが原因で企業側の責任が認められた判決が複数あります。一方で、マニュアル整備や相談体制の構築が評価され、企業側の責任が否定されたケースもあります。安全配慮義務が実際にどう判断されるかの具体的な裁判例は「カスハラと安全配慮義務:企業の責任が問われた判例3選」で詳しく解説していますので、自社の体制整備の参考にしてください。
また、見落とされがちなのが労災リスクです。厚生労働省は2023年9月、精神障害の労災認定基準を改正し、顧客や取引先からのひどい迷惑行為(カスタマーハラスメント)を「具体的出来事」の一つとして明記しました。これにより、カスハラが原因でうつ病などを発症した場合、労災として認定されやすくなっています。労災認定は、損害賠償とは別に、労働保険料率や企業の安全衛生上の評価にも影響し得る問題です。
リスク③:ブランド毀損
カスハラへの対応に時間を取られると、他の顧客へのサービス提供が滞ります。これが「対応の遅れ→一般顧客の離反→SNSでの悪評拡散」という三段階で進み、ブランドイメージを毀損する流れにつながりかねません。悪質なクレーマーへの対応を現場任せにせず、組織として毅然と対応する体制があること自体が、他の顧客からの信頼にもつながります。
まとめ
カスハラ対策は、コストではなく「投資」として捉えるべきものです。人材流出、損害賠償・労災リスク、ブランド毀損という3つのリスクはいずれも、現場任せの対応では防ぎきれません。組織として体制を構築することが、最終的にもっとも低コストな選択になります。
次回・第4回では、厚生労働省のマニュアルに基づいた「社内体制整備の5ステップ」を具体的に解説します。
出典・参考
- 厚生労働省:心理的負荷による精神障害の労災認定基準の改正について(令和5年9月、カスタマーハラスメントを「具体的出来事」に追加)
- 厚生労働省:カスタマーハラスメント対策(企業マニュアル・業種別マニュアル)
- 労働契約法第5条(安全配慮義務)
- 改正労働施策総合推進法(2025年6月11日公布、カスタマーハラスメント防止措置の義務化は2026年10月1日施行)


