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訪問看護の65%が被害報告あり、それでも「この程度なら」と報告されない|福祉現場のカスハラと、10月からの義務化

最新ニュース解説

静岡朝日テレビが2026年9月14日、福祉現場のカスタマーハラスメントを報じました。静岡県島田市で訪問看護やデイサービスを手がける事業所への取材です。

報道の中に、この問題の構造がそのまま現れていました。順に見ていきます。

▶ 元記事:「胸を触られたことも」女性職員に暴言・セクハラ…福祉現場で深刻化するカスハラの実態 事業所の65%が被害経験「怖いが報告できない」(静岡朝日テレビ)


1対1の密室で起きている

報道された事業所の代表は、福祉現場ならではの事情をこう説明しています。

福祉の仕事に携わっている方は女性が多いので、1対1の場面で、利用者も「女性職員か」と、上から目線になるというか

この事業所では職員の8割以上が女性で、訪問看護では男性利用者と女性職員が2人きりになるケースがあります。

実際に被害を受けた女性職員の証言は、傷の処置で男性利用者の自宅を訪問した際のものでした。利用者は自己流の処置方法を主張し、説明を聞き入れず威圧的な言動を繰り返したといいます。

罵声のように感じる大きな声で「俺には俺のやり方がある。これはしなくていい」。なんでそんなに怒るのかなとか、なんでそんなふうに大きな声で言わないといけないのかなと考えたが、それよりも怖いという思いが強かった

小売や飲食のカスハラと決定的に違うのは、逃げ場がないことです。店舗であれば他の従業員がいて、バックヤードがあり、最終的には退店を求められます。利用者の自宅には、そのどれもありません。


65%という数字

全国訪問看護事業協会などの調査によると、職員からカスハラを受けたと報告されたことがある事業所は約65%に上ります。

ただし報道は、その数字の裏側も伝えています。この事業所では、被害を受けても「この程度なら」と管理者に報告しない職員が少なくなかったといいます。

つまり65%は報告された分だけの数字です。

厚生労働省の指針も、この点に触れています。事業主が講じなければならない措置の4つ目に「事案に係る事実関係を迅速かつ正確に確認すること」がありますが、その前提として、職員が報告できる状態にあることが必要です。

報告されなければ、事実関係を確認することもできません。


この事業所が4月にやったこと

報道によると、この事業所は2026年4月にカスハラ防止に関する規程を作成しました。職員が相談しやすい環境を整えたうえで、利用者側にもマナーを守るよう求めています。

職員も今までのように心の中でとどめておかないで、ちゃんと話せる場所があるんだよということがわかってもらえて、気持ちよく仕事ができるようになれば

この順序は、10月1日から義務化される内容と一致しています。

厚生労働省の指針(令和8年厚生労働省告示第51号)が定める措置の1番目と3番目は、次のとおりです。

措置の内容
1カスタマーハラスメントには毅然とした態度で対応し、労働者を保護する旨の方針を明確化し、管理監督者を含む労働者に周知・啓発すること
3相談窓口をあらかじめ定め、労働者に周知すること

方針を定め、相談できる場所を作る。この事業所が4月にやったことは、10月から全事業主に求められる措置の中核部分です。


10月1日から、すべての事業主に義務づけられます

2026年10月1日、改正労働施策総合推進法が施行されます。

企業の規模や業種を問わず、労働者を雇用するすべての事業主が対象です。中小企業の適用猶予はありません。訪問看護ステーション1か所の事業者も、職員2人の事業所も対象になります。

講じなければならない措置は10項目あります。このうち、他のハラスメント対策(パワハラ・セクハラ等)と共通するものが7項目、カスタマーハラスメント特有のものが3項目です。

カスハラ特有の3項目は次のとおりです。

(1)毅然とした態度で対応し、労働者を保護する旨の方針の明確化と周知

(2)カスタマーハラスメントの内容と、あらかじめ定めた対処の内容の周知

指針は対処の例として、次のようなものを挙げています。

  • 労働者から管理監督者等に直ちに報告し、その場の対応の方針について指示を仰ぐ
  • 可能な限り労働者を一人で対応させない。必要に応じて管理監督者等が代わって対応する
  • 顧客等とのやり取りを録音・録画する
  • 暴行、傷害、脅迫などの犯罪に該当し得る言動については警察へ通報する

(3)特に悪質なカスタマーハラスメントへの対処の方針をあらかじめ定め、周知し、対処できる体制を整備すること

すでにパワハラ防止措置を講じている事業所であれば、追加で必要になるのはこの3項目です。


訪問系で「一人で対応させない」をどう実現するか

指針が挙げる対処例に「可能な限り労働者を一人で対応させない」とあります。

しかし訪問看護・訪問介護では、これが最も難しい。複数名で訪問すれば人件費が倍になり、介護報酬上の加算が算定できるとは限りません。

この問題に対して、複数の自治体が補助制度を用意しています。

利用者等の同意が得られず、複数名訪問の加算が算定できない場合に、2人目の人件費を補助する仕組みです。

自治体補助の内容
埼玉県1,630〜5,670円/回・補助率10/10
兵庫県372〜4,020円/回・補助率2/3(実施37市町)
福岡県1,630〜4,020円/回・補助率1/2
東京都時間単価1,700円上限・補助率3/4
大阪府2人目に係る経費の一部
神奈川県30分未満2,500円/30分以上4,000円(ケアマネ向け)

複数名訪問が難しい場合に、機器の導入を補助する制度もあります。

自治体補助の内容
東京都上限10万円・補助率1/2
埼玉県上限10万円・補助率10/10(ケアマネ向け)
千葉県上限6万円・補助率2/3
兵庫県21,500円を基準額・補助率2/3(実施7市町)
福岡県上限13,000円・補助率1/2
鳥取県上限5万円・補助率1/2
神奈川県上限10万円(ケアマネ向け)

自治体によって対象になる機器が異なります。録音機器のみの自治体、位置情報と通報機能を求める自治体、ウェアラブルカメラを明記する自治体があります。また、ほぼすべての制度で月額利用料は対象外です。


静岡県の場合

今回報じられたのは静岡県の事業所です。

静岡県は2026年4月1日に静岡県カスタマーハラスメント防止条例を施行しています。国の措置義務より6か月早く、県内の事業者には条例と法の両方が適用されます。

県が用意している支援は次のとおりです。

カスタマーハラスメント対策相談窓口 社会保険労務士によるオンライン相談。1枠60分、毎月2回実施、1日あたり2枠。つまり月4枠です。無料ですが、枠は多くありません。

啓発物 ポスター、ステッカー、啓発動画(30秒・60秒・90秒版)を配布。県内の事業者が自由にダウンロードして利用できます。

一方で、静岡県には介護・福祉分野に特化した補助金や相談窓口は確認されていません。県が用意しているのは全業種向けの窓口と啓発物です。

上記の表にある複数名訪問の補助や機器導入の補助は、いずれも他県の制度です。自治体によって制度の有無と内容が大きく異なります。


「この程度なら」を変えるために

今回の報道で最も重いのは、被害を受けた職員が「この程度なら」と報告しなかったという部分だと考えています。

制度も補助金も、被害が報告されなければ動きません。相談窓口を作っても、使われなければ意味がない。

報道された事業所の代表の言葉は、そこに向けられていました。

職員も今までのように心の中でとどめておかないで、ちゃんと話せる場所があるんだよということがわかってもらえて

10月1日から義務づけられる10項目は、書類を整えることが目的ではありません。職員が「これは報告していいことだ」と思える状態を作ることが目的です。

方針を明確にするのは、「毅然と対応する」と事業所が宣言することで、職員が報告をためらわなくなるからです。相談窓口を定めるのは、どこに言えばいいか分からない状態をなくすためです。

規程を作った時点で終わりではなく、そこからが始まりということになります。


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