2026.10.28 ニュース解説
東京都「カスタマーハラスメント防止対策推進事業 企業向け奨励金」の令和8年度第2回募集、10月23日からエントリー開始のはずが、まさかの延期になりました。特設サイトが10月27日に発表したもので、理由は「セキュリティ対策」とだけ。新しい開始日は「決まり次第お知らせ」としか書いておらず、現時点では見通し不明です。40万円を当てにして準備していた企業にとっては、ちょっと肩透かしな展開ですが、この「セキュリティ対策」、実は単独の出来事ではなさそうです。
何が起きたか
東京都は「東京都カスタマー・ハラスメント防止条例」(令和7年4月1日施行)のもと、企業のカスハラ対策を後押しする奨励金事業を続けています。令和8年度第2回募集の事前エントリーは、当初10月23日(金)〜11月6日(金)の受付予定でした。
ところが運営元の東京しごと財団、10月27日に特設ホームページで「システムの安全確保のため」延期を発表。「ご迷惑をおかけしますが」との一言も添えられていて、担当の方の苦労が偲ばれます。新しい開始日はまだ決まっていないとのことです。
なぜ延期になったのか ― 背景を考察する
特設サイトは「セキュリティ対策」とだけ書いていて、具体的な中身までは明らかにしていません。ただ、タイミングを見るとかなり気になる符合があります。
10月20〜22日にかけて、PHPに「PHP2Shell」と呼ばれる重大な脆弱性(CVE-2026-109618/109619、CVSSスコア9.2=Critical)が見つかり、国内が騒然となりました。認証なしで遠隔からコードを実行できてしまうという、かなり踏み込んだ内容で、国家サイバー統括室(NCO)がXで緊急告知、高市早苗首相本人も「修正の準備を進めるように」とXで呼びかける事態に。財務省がWebサーバーの緊急点検と一部機能停止、東京外国語大学が一部アクセス制限をかけるなど、公的機関が軒並み予防的な対応に動きました。ロリポップやさくらインターネットといった国内の主要レンタルサーバーも、一時的なサービス停止や緊急パッチ適用に追われています。
奨励金の特設サイトが延期を発表したのは、この騒動からちょうど1週間後の10月27日。断定はできませんが、全国規模のPHP脆弱性対応の流れに乗って、念のため予防的にシステムの点検・対策を行っている、という見方はかなり有力だと思います(あくまで筆者の推測で、特設サイト側がPHP2Shellだと明言しているわけではありません、念のため)。
もしそうだとすると、これは「東京都のシステムだけが特別に脆弱だった」という話ではなく、全国の行政系Webサイトが足並みを揃えて慎重になっている、その一環と捉えたほうが実情に近そうです。財務省や大学ですら緊急停止に踏み切った騒動なので、奨励金のエントリーシステムが一旦止まるのも、むしろ妥当な判断なのかもしれません。
対象企業・奨励金額(ここは変わってません)
延期は「エントリーが始まる日」の話であって、制度の中身自体は変わっていません。念のため確認しておくと、
- 対象:都内中小企業等(常時雇用従業員300人以下)
- 奨励金額:40万円
- 取組の実施時期:条例施行日(令和7年4月1日)以降に実施していればOK。エントリー前にやっていた対策も遡って対象になります
- 奨励対象の取組:
- ア:カスハラ対策マニュアルの作成
- イ:次のいずれか1つ以上(録音・録画環境の整備/AIを活用したシステム等の導入/外部人材の活用)
今、企業側がすべきこと
- 今すぐエントリーしようとしても無理です:延期中なので、気合を入れてサイトを開いても受け付けてもらえません。焦る必要はなし
- むしろ準備の時間ができたと考える:対象の取組は条例施行日以降なら遡って認められるので、エントリー開始を待つ間にマニュアル整備や録音環境づくりを進めておくのが賢いやり方です
- 告知はこまめにチェック:特設サイト(tokyo-cusharaboushi.jp)のお知らせ欄で随時更新されます。再開後は駆け込みが増えて枠が埋まるのも早そうなので、見逃さない体制だけは作っておきたいところ
- 問い合わせ窓口:
- 今回の延期についての問い合わせ:奨励金事務局 03-4446-4621(平日9:00〜17:00)
- 申請方法全般:東京しごと財団企業支援部企業支援課(03-5211-1002)
- 事業全般:産業労働局雇用就業部労働環境課(03-6420-0862)
カスハラテックの視点から
正直なところ、「延期」と聞くと出鼻をくじかれた感じもしますが、冷静に見ると対象の取組(マニュアル作成、録音・録画環境、AIシステム、外部人材活用)が条例施行日以降なら遡って対象になる仕組みは変わっていません。つまりエントリー開始を待っているこの期間こそ、社内の対策を仕上げるのに使える猶予時間だったりします。
録音・録画環境やAIシステムは、どれを選ぶかで準備期間が結構変わります。再開してから慌てて選定するより、今のうちに比較だけでも済ませておくと、動き出しが早くなるはずです。
今回の件は、カスハラ対策そのものとは直接関係ない「Webシステムの脆弱性」という別軸の話が、思わぬ形で行政サービスの足を引っ張った格好です。制度自体は堅実でも、それを支えるシステムが脆弱なら元も子もない、という教訓は、奨励金を使う側の企業にとっても他人事ではありません。録音・録画環境やAIシステムを選ぶ際も、機能だけでなくセキュリティ面の信頼性まで見ておきたいところです。
出典
- 東京都カスタマーハラスメント防止対策推進事業 企業向け奨励金 特設サイト お知らせ「『令和8年度第2回カスタマーハラスメント防止対策推進事業企業向け奨励金事前エントリー』の延期について」(2026年10月27日) https://www.tokyo-cusharaboushi.jp/news/316/
- 東京都報道発表「カスタマーハラスメント防止対策推進事業 企業向け奨励金(令和8年度第2回募集)」(2026年9月8日) https://www.metro.tokyo.lg.jp/information/press/2026/09/2026090803
- IPA「最優先で対応すべき一連のPHP脆弱性について(PHP2Shell)」(2026年10月22日掲載、10月27日更新) https://www.ipa.go.jp/security/security-alert/2026/alert20261022.html
- 熊本日日新聞「PHP注意喚起、状況把握に全力 政府、SNSで情報周知」 https://kumanichi.com/articles/2049509
- ロケットボーイズ「PHP2Shell(CVE-2026-109618/19)」解説記事 https://rocket-boys.co.jp/security-measures-lab/php2shell-cve-2026-109618-19/


