あなたの自治体で使える支援制度を調べる

カスハラ支援制度は「カスハラ」で検索しても出てこない|全国の条例・公的サポート・補助金を横断できるデータベースを公開しました

最新ニュース解説

2026年10月1日、改正労働施策総合推進法が施行され、企業規模や業種を問わず、すべての事業主にカスタマーハラスメント対策が義務づけられます。中小企業の適用猶予はありません。

これに伴い、事業者からの相談を受ける立場の方――社会保険労務士、中小企業診断士、対策製品を扱うベンダーやディストリビューターの営業担当者――のもとには、こんな質問が届いているはずです。

「うちの県に、使える補助金はありますか」

この質問に正確に答えるのは、想像以上に難しいことです。

私たちは、国・47都道府県・政令指定都市・中核市などの支援制度を1件ずつ一次情報にあたって調べ、カスハラ支援制度データベースとして公開しました。約100件の制度を収録しています。

調べる過程で分かったのは、「制度が分散している」という言葉では足りないということでした。同じ「カスハラ対策の補助金」でも、自治体によって買ってよいものが正反対になるのです。

この記事では、実際に調査して見つかった具体例を挙げながら、制度を顧客に案内する際に踏みやすい落とし穴を整理します。


落とし穴1:制度名に「カスハラ」が入っていない

まず、検索で辿り着けません。

自治体制度・ページの名称
東京都介護現場におけるカスタマーハラスメント対策強化事業
兵庫県介護現場におけるハラスメント対策事業
埼玉県医療・介護・障害福祉従事者の安全確保対策
鳥取県介護職員等長期定着支援事業補助金
福島県働きやすい職場環境づくり推進助成金

埼玉県のページタイトルには「ハラスメント」の語すらありません。鳥取県は「長期定着支援」、福島県は「働きやすい職場環境づくり」です。

「カスハラ 補助金 埼玉県」で検索しても、これらは上位に出てきません。制度の存在を知らなければ、検索語を思いつけないという構造になっています。

私たちが全国を調べる際、キーワード検索ではなく「各自治体の労働部局と福祉部局のページを構造的に辿る」方式を採ったのはこのためです。


落とし穴2:所管部局が分かれていて、行政側も横断していない

カスハラ対策の制度は、大きく2つの系統で走っています。

労働部局(産業労働局、商工労働部、経済部労働政策局など)が全業種向けの制度を、福祉部局(福祉局、健康福祉部、高齢政策課など)が介護・医療・障害福祉向けの制度を所管しています。

問題は、行政側のページが互いにリンクしていないことです。

たとえば東京都には、産業労働局の企業向け奨励金(定額40万円)と、福祉局の防犯機器等導入支援補助金(上限10万円)の両方があります。訪問介護事業所であれば、条件次第で両方が視野に入ります。しかし都のどちらのページを見ても、もう一方への案内はありません。

47都道府県を調べた中で、部局をまたいで相互に案内していたのは千葉県だけでした。商工労働部のカスハラページから、高齢者福祉課の介護向け制度へリンクが張られています。

さらに、市区町村レベルでは所管がより分散します。調査では労働、商工、産業政策、消費生活、人権、介護、障害福祉、児童福祉の各部局に、それぞれ別の施策が見つかりました。水戸市は商工課、宇都宮市は消費生活センター、福岡市は市民局の人権啓発が担当しています。


落とし穴3:同じ「機器導入補助」でも、買ってよいものが正反対

ここが最も事故につながりやすい部分です。

多くの自治体は、カスハラ対策を「危害を防ぐこと」と捉えています。

防犯ブザー/防犯ボタン付きセキュリティ端末(位置検索機能及び緊急時における警備会社への通報機能を有する端末)/ボイスレコーダー ──東京都 防犯機器等導入支援補助金 交付要綱

外部にSOSを発信し、録音・位置情報の共有ができる機器購入経費、警備会社による訪問時セキュリティサービス初期導入経費 ──福岡県 安全確保対策推進事業費補助金

固定電話用通話録音装置、ボイスレコーダー、ウェアラブルカメラ、外部にSOSを発信することができる機器、位置情報が共有できる機器 ──千葉県 安全確保対策推進事業補助金

一方、名古屋市は逆の立場を取っています。

防犯を目的とするものは対象になりません 管理用カメラ(防犯カメラではありません。従業員と顧客等との接点を録画するためのカメラが対象) ──名古屋市 中小企業カスタマーハラスメント対策支援補助金

名古屋市はカスハラ対策を「証拠を残すこと」と定義しています。防犯ブザーや警備サービスは対象外です。

他県の情報をもとに機器を選ぶと、不採択になります。「カスハラ対策の補助金だから防犯機器が買えるはず」という類推が通用しません。


落とし穴4:県の制度でも、市によって条件が変わる

県が制度を作り、市町村が窓口となって交付する「県市協調事業」では、市町村側が県より対象を狭めていることがあります

兵庫県の「訪問看護師・訪問介護員等安全確保・離職防止対策事業(1人訪問補助)」を例に挙げます。

県のページには、補助対象経費として次の3類型が挙げられています。

  • 位置検索機能・緊急呼び出し機能付き防犯ブザー
  • 防犯ボタン付き携帯電話
  • 警備保障会社によるセキュリティシステム導入に必要な機器購入費

ところが姫路市の要綱では、警備業者に直接支払ったものだけが対象です。防犯ブザーの単体購入は通りません。対象となる介護サービスの種別も、県の5種別から4種別に減っています。

さらに、この補助を実施しているのは兵庫県内41市町のうち7市町のみです。神戸市、姫路市、明石市、加古川市、宝塚市、三田市、神河町。県内の8割以上の地域では使えません。

そして対象の判定基準は事業所の所在地ではなく、担当する利用者の介護保険の保険者です。同じ事業所でも、担当する利用者によって使えたり使えなかったりします。

「兵庫県には機器導入の補助があります」という案内は、県内の大半の事業者にとって誤りになります。


落とし穴5:ページに書かれていない条件が要綱にある

自治体のページは要点をまとめたものであり、交付要綱まで読まないと分からない条件があります。

東京都の防犯機器等導入支援補助金では、ページの対象経費欄に「訪問介護員等に対するハラスメント対策として」と書かれています。しかし交付要綱の第1条にはこうあります。

訪問介護員等及び介護支援専門員に対するハラスメント対策として

ケアマネジャーも保護の対象に含まれることは、要綱にしか書かれていません。

埼玉県の複数訪問費用補助では、ページに補助基準額が「1,630円〜5,670円」という範囲でしか示されていません。18行におよぶ単価表は、交付要綱PDFの別表3にあります。

名古屋市の補助金では、社会福祉法人・医療法人・NPO法人が対象外であることが、要綱でも募集案内でもなく、実施機関のよくあるご質問に記載されていました。介護事業者の大半が使えないという重要な条件が、4つ目の資料にしかない状態です。


落とし穴6:ランニングコストは、ほぼすべての制度で対象外

機器導入補助を持つ自治体を横断すると、共通の設計が見えてきます。

防犯機器の運用に係るランニングコスト(月額使用料等)等に係る経費は補助対象外です ──東京都

初度整備費用以外の、防犯機器の運用に係るランニングコスト等に係る経費、消費税は補助対象外 ──兵庫県

電話機本体、スマートフォン及びタブレット等の汎用性のある機器・物品の購入経費や、セキュリティサービスの月額利用料金等のランニングコストは対象外 ──埼玉県

セキュリティサービスの月額利用料金等のランニングコストは対象外 ──福岡県

独立した自治体が、同じ設計に到達しています。初度整備費のみが対象で、月額利用料は対象外というのが、この制度類型の標準と考えてよさそうです。

一方で、国の「デジタル化・AI導入補助金」は逆の設計です。クラウド利用料を最大2年分まで補助対象としています。

つまり、制度によって有利な契約形態が逆になります。月額課金型のサービスを提案する場合、自治体の機器補助では不利になり、国の補助金では有利になる。見積の内訳をどう切るかが、補助の可否を左右します。


落とし穴7:制度は年度内でも動く

制度は年度単位で固定されているわけではありません。

埼玉県では、2026年6月1日に川口市で介護支援専門員が殺害される事件が発生した後、次のような動きがありました。

  • 6月3日:厚生労働省から通知
  • 6月5日:埼玉県から通知
  • 7月31日:交付要綱の全面改正(補助率を9/10から10/10へ、対象サービスを9種別に拡大、事前協議を廃止)
  • 同日:ケアマネジャー向けの新制度を2本創設

事件から2か月で、制度が新設・改正されています。年1回の情報更新では追いつきません。

また、岡山市のカスタマーハラスメント防止条例は、2026年10月1日に条例自身の附則によって自動的に改正されます。事業者の責務が「講ずるよう努めなければならない」から「講じなければならない」に変わります。同じURLの同じPDFの内容が、その日を境に変わることになります。


データベースの設計方針

以上を踏まえ、次の方針でデータベースを構築しました。

一次情報にあたる。 自治体のページ本文だけでなく、交付要綱・実施要領・実施機関のQ&Aまで確認しています。各制度に「確認日」と「どこまで確認したか(ページのみ/要綱まで/所管課に照会済み)」を記録しています。

要綱の文言を要約しない。 対象経費や除外規定は、要綱の原文をそのまま掲載しています。言い換えた瞬間に、意味がずれるためです。

所管部局をまたいで横断する。 都道府県や業種で絞り込むと、労働部局の制度と福祉部局の制度が同じ画面に並びます。

分からないことは「確認中」と表示する。 推測で埋めていません。所管課に照会中の事項は、その旨を明示しています。

制度がないことも情報として扱う。 調査した結果として制度が確認できなかった自治体は、その旨が分かるようにしています。


相談を受ける立場の方へ

制度を顧客に案内する際、次の点を確認されることをおすすめします。

1. 対象経費の原文を読む

「カスハラ対策の補助金」という括りで類推せず、その自治体の要綱に何と書かれているかを確認してください。防犯機器が対象の自治体と、防犯目的を明確に除外する自治体が実在します。

2. 実施市町村を確認する

県の制度であっても、実施している市町村が限られている場合があります。また、事業所の所在地で判定するのか、利用者の保険者で判定するのかも自治体によって異なります。

3. 見積の内訳を分ける

初期費用(機器代・初期設定費)と月額費用を分けた見積を用意しておくと、自治体の機器補助に対応できます。逆に国のデジタル化・AI導入補助金では、クラウド利用料が2年分まで対象になります。

4. 前提となる手続きの所要期間を確認する

東京都の企業向け奨励金はGビズIDプライムの取得が必要で、2〜3週間かかります。福岡県の補助金は県の研修受講が要件です。締切の日付だけでは、実質的な着手期限が分かりません。


収録範囲と今後

現在、以下の範囲を収録しています。

  • 国(厚生労働省、中小企業庁)
  • 47都道府県(労働部局・福祉部局の両方)
  • 政令指定都市20市
  • 中核市62市
  • 施行時特例市23市

制度の種類としては、条例・法令による義務無料で使える支援(相談窓口、専門家派遣、研修、マニュアル、啓発物)、費用の補助(機器導入、複数名訪問の人件費、奨励金)の3層に整理しています。

情報は継続的に更新しています。自治体の制度は年度替わりと補正予算のタイミングで動き、事件を契機に数か月で新設・改正されることもあります。

記載内容に誤りを見つけられた場合や、収録されていない制度をご存じの場合は、お問い合わせからお知らせいただけますと幸いです。

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参考・出典

本記事に記載した制度の詳細および出典は、データベースの各制度ページに掲載しています。


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