2026.10.16 公開
不定期連載「本当にあった、笑ってはいけないカスハラ集」第3回は、これまでで一番発端がささやかな事件です。舞台は、ある朝のコンビニのレジでした。
事の発端は、「お釣りを渡す順番」
2018年12月27日午前9時頃、名古屋市南区のコンビニで、47歳の男性客が数百円の買い物を1万円札で支払いました。
レジを担当した31歳の女性店員は、まずお釣りの硬貨を渡し、続けて紙幣を渡そうとしました。ところが男性は、硬貨だけを受け取った時点で「お釣りの九千円を渡してもらえない」と思い込んでしまいます。店員からすれば、ただ渡す順番が先後逆だっただけ——商品の不備でも、接客態度の問題でもない、完全な勘違いでした。
「殺す」という言葉とともに、土下座を要求
思い込みに火がついた男性は、店員に対して「殺す」という発言とともに、土下座して謝るよう怒鳴りつけました。数百円の買い物で、お釣りの受け渡し順という、誰にとっても取るに足らないはずの出来事が、一転して脅迫まがいの事態に発展した瞬間です。
自分で110番し、自分が取り押さえられる
この事件で一番の見どころは、ここからです。警察を呼んだのは、怒鳴られた店員ではありません。男性自身が110番通報したのです。おそらく「店員の不誠実な対応」を訴えるつもりだったのでしょう。
ところが駆けつけた警察官が状況を確認した結果、取り押さえられたのは通報した本人でした。男性は逮捕され、報道では無職だったとも伝えられています。自分から呼んだ警察に、自分が連れていかれる——これほど分かりやすい「ブーメラン」もなかなかありません。
この話の「笑えない」ポイント
この事件が象徴しているのは、カスハラの多くが「事実の確認」の一歩手前で止まれずにエスカレートしてしまうという構造です。店員にもう一度「お釣りをまだお渡ししていませんか?」と確認する、あるいは一呼吸置くだけで、何事もなく終わっていたはずの話でした。
「殺す」というような発言は、内容次第で明確に脅迫罪の対象になります。どこからが犯罪としての「脅迫」に当たるのかの線引きは「威力業務妨害・不退去・脅迫・強要罪が成立する境界線チェックリスト」にまとめていますので、窓口・レジ業務に関わる方はぜひ一読をおすすめします。
もう一つ注目したいのが、この男性が「自分は不当な対応をされた」と信じて警察を呼んでいる点です。カスハラの加害者は、必ずしも「自分が悪質なことをしている」という自覚があるわけではなく、むしろ「自分こそが被害者だ」という思い込みの中で行動していることが少なくありません。この「要求する側の自己認識のズレ」は、正当なクレームとカスハラの境界線を考えるうえでも重要な視点です。「カスハラと正当なクレームの違い」もあわせてご覧ください。
この連載では、皆さんの「あの話」を募集しています
このコーナーでは、現場で実際にあった「笑ってはいけないカスハラ」エピソードを募集しています。「うちの店でもこんなことがあった」「あの時の対応、今思えば笑えるけど当時は大変だった」——そんな体験談がありましたら、ぜひお問い合わせフォームからお寄せください。いただいた情報は匿名で再構成したうえで、このコーナーでご紹介させていただく場合があります。
出典・参考
- Japan Today:Man orders female store clerk to prostrate herself over misunderstanding with change
- 弁護士ドットコムニュース:カスタマーハラスメントに関する実例紹介記事
※本コーナーは、過去に報道された実際の事例をもとに、要点を再構成して紹介しています。


