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カスハラと正当なクレームの違いとは?判断基準・チェックリストを徹底解説

基礎知識・法改正

2026.10.11 徹底解説

「これってカスハラですか、それとも正当なクレームですか」——カスハラ対策が企業に義務付けられた今、現場で最も頭を悩ませるのがこの問いです。東京都が2026年3月に公表した実態調査では、カスハラ対策に取り組めていない企業が挙げた理由のトップは「正当なクレームとの判断の難しさ」(29.6%)でした。

一方で、クレームを言う側にも「自分の言い方が強すぎて、カスハラだと思われてしまわないか」という不安があります。先日取り上げた薬局の裁判例も、まさにこの線引きが争われたケースでした。

この記事では、厚生労働省と東京都の指針が示す判断基準を軸に、事業者側・消費者側の両方の視点から、カスハラと正当なクレームの違いを徹底的に整理します。


1. なぜ線引きが難しいのか

カスハラの線引きが難しいのは、「クレームの内容」と「クレームの伝え方」が、別々に評価されるべきものだからです。

多くの人は「言っていることが正しいかどうか」で判断しようとしますが、実際の基準はそれだけではありません。

  • 言っていることが正しくても、伝え方が行き過ぎていればカスハラになり得る
  • 言っていることに根拠がなくても、申し出自体や伝え方が穏当であれば、直ちにカスハラにはならない

この「内容」と「伝え方」のズレが起きるからこそ、「クレームの内容は正しいのに、カスハラ扱いされた」「大声を出していないのに、出禁にされた」といったトラブルが起きます。まずこの構造を理解することが、線引きを考える第一歩です。


2. 判断基準の基本フレーム:2つの軸

厚生労働省の「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」と、東京都のカスタマーハラスメント防止条例に基づく指針は、いずれも次の2つの軸でカスハラを判断するとしています。

ある言動がカスタマーハラスメントに当たるかどうかは、 ①要求内容の妥当性 と ②その要求を実現するための手段・態様の相当性 の両方を見て、総合的に判断する

つまり、「①は正当だが②が不相当」「①も②も不相当」のいずれかに当たる場合、その言動はカスハラと評価される可能性が高くなります。逆に、①が正当で②も相当であれば、それは正当なクレームです。

以下、それぞれの軸を具体的に見ていきます。


3. 軸①「要求内容の妥当性」とは

ここでは、「そもそもその要求に根拠があるか」を確認します。東京都の指針が示す考え方はこうです。

  • 自社に瑕疵・過失がない場合:欠陥のない商品の交換要求などは、正当な理由がないと考えられる
  • 業務・商品と無関係な要求の場合:販売した商品と無関係な私物の故障に対する賠償要求など

ただし東京都の指針は、「要求内容が妥当性を欠くというだけでは、直ちにカスハラとは判断せず、次の②の行為の有無と合わせて判断する」としています。つまり、要求が的外れであっても、その伝え方が穏当であれば、カスハラとまでは言えないという整理です(この場合、企業側は要求自体を拒否できます)。


4. 軸②「手段・態様の相当性」とは

要求に多少の根拠があっても、それを実現する「やり方」が行き過ぎていれば、カスハラに当たります。東京都の指針は、この軸をさらに2パターンに分けて具体例を挙げています。

(2) 要求の妥当性にかかわらず、手段・態様が不相当なもの

要求内容が正しいかどうかに関係なく、行為そのものが違法・不相当なものです。

  • 身体への攻撃(物を投げる、殴るなど)
  • 精神的な攻撃(人格否定、名誉を傷つける言動)
  • 威圧的な言動(声を荒らげる、話を一方的に遮る)
  • 土下座の要求
  • 長時間の執拗な言動、就業者の拘束
  • 差別的・性的な言動、個人への中傷

(3) 要求の妥当性に照らして、手段・態様が不相当なもの

要求自体には一定の根拠があっても、実現の求め方が過度なものです。

  • 著しく高額な商品への交換要求
  • 社会通念上著しく高額な金銭補償の要求
  • 正当な理由のない過度な謝罪の要求(上司名での謝罪文、自宅への謝罪訪問など)
  • 従業員には不可能な行為や、抽象的で対応の仕方が分からない行為の要求

この(2)と(3)の違いは重要です。(2)は「何を求めているか」に関係なく一発でカスハラ認定されうる行為、(3)は「求めていること自体は分かるが、求め方が過剰」というケースです。実務では(3)のパターンのほうが判断に迷うことが多くなります。


5. 正当な申出とカスハラは、ここが違う

東京都の指針は、正当なクレームとの違いについて、次のような考え方も示しています。

  • 申出自体は制限されない:正当な理由に基づき、社会通念上相当な手段・態様で行う苦情・意見・要望は、権利として制限されるものではありません。正当なクレームは業務改善や新しいサービス開発につながるものとされています。
  • 交渉の過程で変わりうる:最初の申し出が正当なものであっても、その後のやり取りの中で違法・不相当な行為があれば、その時点からカスハラに当たる可能性があります。つまり「最初は正当なクレームだったのに、途中からカスハラになる」ケースは十分にあり得ます。
  • 要求を取り下げた場合:企業側が要求を拒否した際、顧客が速やかに取り下げた場合は、就業環境が害されたとまでは言えない可能性があるとされています。
  • 総合的に判断される要素:行為の目的、経緯や状況、業種・業態、行為の頻度・継続性、従業員側に問題行動がなかったか、当事者間の関係性——これらを総合的に考慮して判断されます。単発の強い言葉だけで即断されるわけではありません。

6. 自分で当てはめられる判断フロー

実際のクレーム対応の場面で使える、簡易的な判断の流れです。事業者側の一次対応にも、消費者側が自分の言動を振り返る際にも使えます。

  1. 要求に根拠はあるか?(軸①)→ 自社・自分に過失やミスはあったか、要求は業務・商品に関係するか
  2. 伝え方・求め方は妥当か?(軸②)→ 身体的・精神的な攻撃、威圧的な言動、土下座要求などの「一発アウト」行為がないか
  3. 要求の実現方法は過度でないか?(軸②の続き)→ 要求自体に根拠があっても、金額・方法・頻度が社会通念を超えていないか
  4. これまでの経緯はどうか?→ 一度拒否された後も要求が続いているか、途中から態度が変わっていないか
  5. 総合的に見て、就業環境を害するレベルか?→ 単発の不快感ではなく、継続性・深刻さを踏まえて判断する

この5ステップのうち、どこかで「一発アウト」の行為(身体的攻撃、威圧的言動、土下座要求など)が出てきた場合は、要求内容の正当性に関わらずカスハラと判断してよい、というのが指針の立場です。


7. 実例で見る:薬局裁判のケース

このフレームを、実際の裁判例に当てはめてみます(詳細はこちらの記事)。

経緯:薬局でクーポンの説明を求めた70代男性に対し、薬剤師が「気に入らないなら来なくていい」と発言。男性は謝罪を求め、薬局側はいったん謝罪したが、男性がさらに顛末書を求めたところ、薬局側は男性を「出禁」とし、カスハラだと通告した。

  • 軸①(要求内容の妥当性):クーポンの説明を求めたこと自体、薬剤師の発言に問題があったこと自体は、裁判所も認めています。初動の要求には根拠がありました。
  • 軸②(手段・態様の相当性):裁判所は、男性の言動が「受忍限度を超えた著しく侮辱的、誹謗中傷的とまでは認められない」と判断し、出禁の通告も「人格を直接否定する内容ではない」としました。つまり、要求内容に根拠があり、伝え方も社会通念の範囲内だったため、カスハラ”ではなかった”と見るのが妥当です。
  • 一方で薬局側の対応:裁判所は、企業が「カスハラだ」と伝えたこと自体は違法ではないとしました。顛末書の要求という「過度な対応要求」(軸②の(3)に近い)に該当する可能性を、企業側が一定の裁量で判断できる、という点がこの判例の重要な示唆です。

この事例が示すのは、「要求の内容そのものは筋が通っていても、求め方・求める深さ(顛末書の提出など)が過度だと評価されれば、企業側がカスハラと判断する余地がある」という現実です。線引きは、要求の「正しさ」だけでは決まりません。


8. グレーゾーンQ&A

実務でよく迷うケースを、2つの軸に当てはめて整理します。

Q. 店員の対応に腹を立てて、つい声が大きくなってしまった。これはカスハラ?
A. 「声が大きい」だけなら即座にカスハラとは言えませんが、「威圧的な言動」(軸②(2))に近づくほど、カスハラと評価されるリスクが高まります。内容が正当でも、トーンや態度は別軸で見られる、という典型例です。

Q. 店員を無断で撮影し、SNSに投稿すると伝えた。
A. 「個人への中傷」や、不当な圧力をかける行為として、軸②(2)の「一発アウト」に近い扱いを受ける可能性が高いです。要求内容の妥当性にかかわらず問題視されます。

Q. 不良品の交換を求めたが、断られたので一度引いた。後日改めて連絡した。
A. 要求を速やかに取り下げている点は、指針上「就業環境を害したとまでは言えない」方向に働きます。ただし再度の申し出で態度が変わる場合は、その時点からの言動が改めて評価されます。

Q. 自分は正当な指摘をしているつもりだが、「カスハラです」と言われてしまった。
A. 企業側が「カスハラだ」と伝えること自体は、一定の裁量として認められる場合があります(7章の裁判例)。納得できない場合は、やり取りの経緯を記録し、必要に応じて消費生活センターや弁護士等の第三者に相談するのが現実的な対応です。

Q. 土下座や始末書は求めていないが、謝罪文を上司の名前で出すよう求めた。
A. 「正当な理由のない過度な謝罪の要求」(軸②(3))に該当する可能性があります。要求自体に根拠があっても、実現方法が過度だと判断されるケースです。


9. 事業者側・消費者側、それぞれの心得

事業者側

  • 判断基準を社内で事前に明文化し、現場任せにしない(基準づくりは基本方針テンプレートも参考に)
  • 「要求内容」と「伝え方」を分けて評価する視点を、対応マニュアルに組み込む
  • やり取りの記録(通話録音、対応メモ)を残し、後から経緯を説明できるようにする
  • 「カスハラだ」と伝える判断は、現場の一担当者だけに負わせず、組織として行う

消費者側

  • 伝えたいこと自体に根拠があっても、伝え方次第で評価が変わることを意識する
  • 要求が一度断られた時点で、感情的に深追いしない。必要なら第三者(消費生活センターなど)に相談する
  • 「原因究明」「顛末書」など、要求の”深さ”自体が過度になっていないか、一度立ち止まって確認する

10. まとめ

カスハラと正当なクレームの違いは、「要求の内容が正しいかどうか」だけでは決まりません。「要求内容の妥当性」と「手段・態様の相当性」という2つの軸で、総合的に判断されるのが実際の基準です。

  • 要求に根拠があっても、伝え方・求め方が過度ならカスハラになり得る
  • 要求に根拠がなくても、伝え方が穏当なら直ちにカスハラとはならない(ただし企業は要求自体を拒否できる)
  • 最初は正当でも、交渉の途中からカスハラに転じることがある

事業者の方は、この2軸を社内の判断基準に落とし込み、現場任せにしない体制づくりを。消費者の方は、自分の要求が「内容」と「伝え方」の両方で見られていることを意識することが、トラブルを防ぐ最初の一歩になります。

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出典・参考

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